26/04/2016
石田瑞穂『耳の笹舟』(思潮社)
打ち合わせと称し、詩人の石田瑞穂さんとおおいに呑んだ。おおいに呑んで、おおいに語った。その語ったうちからデザインのアイデアがストンと出てくればこんなに楽なことはない。そうはうまくいかないが、わりとそんな語りの中からデザインは始まる。読むだけが装丁のトッカカリというわけでもないのだ。
その席でぼくは「スポーツカーのような詩集を作りましょう」と言ったように思う。酔いのおぼろげな記憶から思い出すのはそんなヘンテコリンな言葉だった。
呑み疲れ、語り疲れて帰ってすぐ、そのまま仕事場へもぐりこんでデザインにとりかかった。
手に少し余るような大きめの書物に悠々と言葉がおさまっている、そんな本を考えた。いつもよりも少し横幅の大きいものを手にする違和感と「モス」という紙の持つ手に吸いつくようなしっとりとしたカバーの質感が合わさって、それは触覚をくすぐる本になる。天の小口からは表紙の「彩雲・あじさい」が隙間に色をのぞかせ、何かを大切に包み込んでいるように思わせる。その本を開くと、本文の「OKミルクリーム・ロゼ」の暖かみにのせられた文字が「ヒラギノ明朝W3」の漢字と「游築36ポ仮名W2」のひらがなの強弱のリズムで、言葉の音を響かせるのだ。
この詩集は耳の聞こえなくなった詩人が世界から音をひろうところから始まる。
この本の中の言葉である「かたつむり管」「音ずれ」「内へ 内へ」「万華鏡」「かごめ かごめ」などから、ズレながら描かれ、止まることのない円の動きを考えた。それを本の表面に金箔で押す。本を手にするとその箔に反射する光が円にそってグルグルといつまでも回り続ける。その回転を止めるようにちょうど真ん中に、きっぱりと切り裂くようにタイトル文字が入る。箔の動きを止めるその文字は箔ではなく、質感の違うインキで刷られた文字の方がいい。素材のレイヤーを変えるのだ。そしてその文字自体の強さを強調するために、たっぷり盛ったスミインキ2度刷りとした。
表紙から見返しへのうねるような青にのるカバーは、ちょうど水に浮かぶ笹舟のイメージである。その舟はグルグルと円を描きながら回り続け、音を出し、ズレながら、回転するビニール盤のように、そこから言葉の音が「音(おと)ずれる」のだ。
カバー:モス・130・ライトグレー・4/6Y(1C+箔押し)
オビ:リ・シマメ・スノーホワイト・4/6Y・100kg(1C)
表紙:彩雲・あじさい・4/6Y・100kg(1C)
見返し:彩雲・あじさい・4/6Y・100kg(0C)
化粧扉:リ・シマメ・スノーホワイト・4/6Y・100kg(1C)
花布:伊藤信男商店・54
スピン:アサヒクロース・A24